音楽ライターでDJの細田日出男さんがTBSラジオ『ウィークエンドシャッフル』に出演。宇多丸さんと共に、20世紀最大の音楽家、ジェームズ・ブラウンを特集。現代音楽に多大な影響を与えたJBの功績を語り合っていました。
(宇多丸)ファンキープレジデント、ミスターダイナマイト、ソウルブラザーナンバーワン、ショウビジネス界で最も忙しい男などなど、数々の異名を持つ、20世紀で最も偉大な音楽家、JBことジェームズ・ブラウン。21世紀現在、彼の音楽に影響を受けていないポップミュージックはない!もう1回、言います。21世紀現在、彼の音楽に影響を受けていないポップミュージックはない!と断言していいくらい、ジェームズ・ブラウンは当時、1960年代、70年代、未来の音楽像を作り続けていたのです。しかし、その功績が特にこの日本ではいまいち認知されていないのではないか?そんな危惧のもと、今夜はジェームズ・ブラウン、JBの名曲の数々を聞きながら、JBの偉大さとは何だったのか?を改めて検証していく特集となっております。お相手は、この方。音楽ライターにして、DJ。そして私のもう本当に大、大、大、大先輩でございます。細田日出男さんです!
(細田日出男)どうも、こんばんは。よろしくお願いします(笑)。
(宇多丸)ちょっと怖い・・・
(細田日出男)なんで怖いの?(笑)。
(宇多丸)大先輩すぎてちょっと、恐縮でございます。
(細田日出男)いや、どうもありがとうございます。お呼び頂いて。
(宇多丸)いえ、とんでもないです。JB特集をやろうかなと考えた時に、いろんな人の名前を挙げさせていただいたんですけど。やっぱりもう、ブラックミュージックというか、ソウル・ミュージックというかね、この業界でもう細田さんを呼んでくれば、とにかくどっからも文句の付けようがないっていう。そんぐらいの業界のドン。
(細田日出男)なにを言ってる・・・(笑)。もう、ドンじゃないから。やめてほしいんだけど。本当に(笑)。
(宇多丸)(笑)。大先輩ということで、どういう関係か?というあたりも説明しておきたいんですが。ライター、DJ。そして、ここでございます。早稲田大学の音楽サークルGALAXYの大先輩ですね。私、宇多丸の何期ぐらい上になるんでしょうかね?10年ぐらい上になるんですかね?
(細田日出男)10年ちょっとだね。
(宇多丸)そうですかね。当然、私も大学に入った時点では卒業されて。その時点で大、大、大先輩でございましたけど。日本のブラックミュージック研究の本当に第一人者でございます。今回の特集のきっかけはですね、今月30日にJBの伝記映画『ジェームス・ブラウン 最高の魂(ソウル)を持つ男』。これがまあ、公開されるということで。このタイミングでちょっとやってみようということですけども。細田さん、この映画、ご覧になりました?
(細田日出男)見ました、見ました。
(宇多丸)いかがでした?
(細田日出男)すごい面白かったですよね。なんか、映画自体は結局JBっていう天才がいて。その天才の孤独の人生みたいなところを、最終的にはボビー・バードっていう1人だけ。要は彼とつながっていた絆みたいなところに語られるような。映画としてそういう形で成立はしてるんですけど。音楽ファンとして、ジェームズ・ブラウンファンとして、たとえば彼の仕草とか発言とか発想とか。要はクリエイターとしてのいろんなパンチラインがそこら中に散りばめられていて。それはね、自分でもぜんぜん知らないことがあったし。そのいろんなことを、音楽的な発明をしてきた人っていうのはわかっていたんだけど。どのタイミングで、その発明をしたのか?で、誰を相手にして発明をしてきたのか?とか。そこらへんがすっごいよくわかって。
(宇多丸)うん、うん、うん。
(細田日出男)で、それも、主役のチャドウィック・ボーズマン。あの人がやっぱり、そっくり。
(宇多丸)半端じゃないですよね。若い時から、齢とってね、あのおばさんヘアーになってから以降も。ねえ。すごかったですよね。
(細田日出男)あの人の熱演が、そこらへんが、うん。すごい映画としてのクオリティーを高めたなっていう風に思いますね。
(宇多丸)JBのあのステージの身のこなしなんて、あれひとつ取ってみても、なかなか・・・
(細田日出男)すごいですよ。あの踊りもそっくりっていうか、パッと見、わからないじゃないですか。
(宇多丸)本当ですね。そんぐらいでしたね。
(細田日出男)だから背丈の見目形とか、そういうのも含めて、すごいキャスティングだなと思いました。
(宇多丸)あの、僕らが映像というか、生々しいものとしては見れることのできない、たとえば、あの有名なパリのライブであるとかですね。あれが、あたかも目の前でやっているように見れるだけでも、『うわー!こ、これがここにいたかったんだよ、俺はーっ!』っていう感じもありますよね。
(細田日出男)そうだね。たしかに。それはね、たしかに僕も思うな。そう。その視点だね。でもね。そういうのをやっぱり、伝えてあげたいっていう制作サイドの思い入れもあったのかな。
(宇多丸)特にね、パリのライブシーンはすっごい力、入ってたじゃないですか。
(細田日出男)すごいね、あれは(笑)。
(宇多丸)あれってあの、音源がずいぶん後になってから出て。ライブの中身は素晴らしいんだけど、ちょっと音質悪かったりなんかして。たぶんあれ、今回ので相当ミックスとかもがんばって、映画にたえるようなところまでやってって。もうそこだけでも、ライブ映画として立ち上がりたくなる感じで。
(細田日出男)そうそう。ライブ映画としても、すごい面白い。あの映画は。もう、おすすめします。
(宇多丸)ぜひ、劇場でね、立ち上がるの、ありだと思いますよ。この映画に関しては。ということで、この映画でも描かれているところですが、まずジェームズ・ブラウン。キャリアですね。に、ついて簡単におさらいさせてください。
(細田日出男)えっと、ちょっとかいつまんでにはなっちゃうんですけども。生まれは1928年5月3日生まれ。ジョージア州のメイコンっていう・・・あの、Wikiとか見ると、オーガスタになっているんですけど、最初はメイコンで生まれていて。その後にオーガスタに移っているのが事実みたいですね。で、55年にフェイマス・フレイムズっていうグループを彼が中心になって組んで。
(宇多丸)はい。
(細田日出男)で、彼が書き下ろした『プリーズ・プリーズ・プリーズ(Please, Please, Please)』っていう。
(宇多丸)いま、流れています。
(細田日出男)デモ録音して。で、それを自分たちでレコードを作って。向こうのラジオ局に持っていって評判になって。で、キングレコードと56年に契約して。その後、シングルがですね、約120枚。そのうちですね、ブラックソウル。ビルボードのチャートでナンバーワンになった曲が17曲。ところがどっこい、ポップではですね、1曲も1位になっていない。
(宇多丸)ああー、そうですか!これはやっぱり、ここが面白い構図ですね。まさに、この映画でも出てきますけども。この『プリーズ・プリーズ・プリーズ』という曲。名曲として言われてますけども。『こんなの、歌じゃないじゃないか』って。
(細田日出男)あれ、面白いよね(笑)。
(宇多丸)面白かったですよね。『なんだ、これ?プリーズ、プリーズって言ってるだけじゃねーか!』っつって。で、それに対して、『これは、そういうんじゃないんです!』っていう。
(細田日出男)あの、だからA&Rの慧眼ぶり。すごいよね。
(宇多丸)あれ、すごいですね。あのくだり、笑っちゃいました。なんかちょっと、今日の特集にも通じていることを言い表してるなと思って。
(細田日出男)あそこの場面は必見ですね。で、補足すると、ポップチャートは俺、調べたんだけど。ええとね、『I Got You (I Feel Good)』は3位。これが最高位で。その次が、『Living in America』で4位。
(宇多丸)えっ?
(細田日出男)っていうのが一応記録で。で、一応ですね、86年にロックの殿堂入りをしています。映画でもあれですね。『ブルース・ブラザーズ』とか、『Living in America』の『ロッキー4』とかにも出演していて。で、2006年の12月25日に、直接の死因は心不全。歯医者に行った翌日に心不全で亡くなったっていう。73才ですね。だからすでに8年、9年ぐらいたっちゃったっていうことですけど。
(宇多丸)はい。という、まあ概要ですね。これがね。ジェームズ・ブラウンの歩んできた道なんですけど。今回、特集をするきっかけの部分で、それこそ『プリーズ・プリーズ・プリーズ』とか、なんて言うんですかね?日本でのジェームズ・ブラウン評価というか、ジェームズ・ブラウン像がまあ、いわゆるR&Bシンガー。その中でも特に、強烈なキャラクター。まあ、ゲロッパ!みたいな。セックスマシーンっていうね。そういうのがメインで。繰り返し言っているように、ポップミュージックに決定的にもたらした功績というか、革新性というか、みたいなところが軽視というか。わかっていないところには全く伝わってないのかもしれないなっていう。
(細田日出男)伝わってないと思うよ、俺も。
(宇多丸)伝わってないですか。そうですかね。それ、たとえばソウル・ミュージックとかブラックミュージック愛好会、あるじゃないですか。日本でも。その中でも、やっぱりジェームズ・ブラウンの評価っていうのはどんな感じだったんですか?前は。
(細田日出男)だから、やっぱりその『ファンクを作った人』みたいに言われてるんだけど。じゃあ、どの曲で生まれたの?っていうのが。
(宇多丸)ファンクというね、音楽像ですよ。これがまあ、その後の、いわゆるダンスミュージック全般でしょうね。現代的ダンスミュージック全般の原型であり・・・
(細田日出男)原型を作った人ですからね。
(宇多丸)まあ、いまだにファンクという音楽は世界中でみんなに繰り返し、やられているわけですけど。どこで生まれたかがちょっとわからない?
(細田日出男)いや、あのね、たとえば『Out Of Sight』という曲があります。それからあと、『Papa’s Got A Brand New Bag』がありますと。
(細田日出男)で、たしかに、聞くと、どこが新しいのか?っていうのはわかるような感じはするんだけど。やっぱり録音自体が古いから、わかりにくいんですよ。きっと。僕だって、僕の齢でもわからないぐらいだから、若い人たちっていうのはそういう風に言われても、どこがどういう風に新しいのかがわからない。
(宇多丸)なんかちょっと、単に古臭い音楽に聞こえかねない。
(細田日出男)だからそれっていうのは、横軸で見ないとダメなんですよ。
(宇多丸)横軸。なるほど。そん時に何が・・・
(細田日出男)何が流行っていたか。それで比較して聞くと、『えっ、これ、ぜんぜん違うじゃん!』っていうのがたぶんね、初めてわかるんじゃないかな?と思っていて。たとえば、だからね、いいですか。これね、面白い。たとえば、64年に『Out Of Sight』っていう、彼がファンクを作ったっていう・・・要は作り方とか音の響き方、ビートの作り方とか。あらゆる点が新しかったという風に言われている曲なんですけど。この年に、他にどんな曲が1位になったかっていうと、たとえばシュープリームスの『Baby Love』。
(宇多丸)はい。
(細田日出男)たとえばあと、テンプスのモータウンでのデビュー曲。『The Way You Do The Things You Do』。
(細田日出男)それからあと、ドリフターズの『Under the boardwalk』。
(宇多丸)ふんふん。
(細田日出男)要はここらへんは、いわゆるリズム・アンド・ブルース。モータウンサウンド。その時に、そういうのを意識しながら『Out Of Sight』っていうのを聞くと、たしかに画期的。そこをやっぱりね、比較して横軸で見ないと、この人が当時、どのぐらい画期的なことをやっていたのか?がわかりにくい。
(宇多丸)具体的に言うと、どのあたりがはっきり違うあたりですかね?その他の曲と。
(細田日出男)それはね、当時、世の中に響いている曲を聞いていた人が、初めて『Out Of Sight』を聞いた時に、『うわっ、これ、すげえ!』っていうのはリアルタイムじゃないとわからないと思いますよ。
(宇多丸)そのね、本当の衝撃っていうのは。
(細田日出男)わかんない。だから、僕らだって、ニュージャックスウィングとかって衝撃的だったじゃないですか。
(宇多丸)はい。1980年代後半から、席巻しましたよ。
(細田日出男)そうそう。あれとね、感覚的にはたぶん、一緒だと思うから。本当にすごいんだよっていう感覚っていうのはやっぱりリアルタイムに聞いた人じゃないとわからないと思うの。それをね、いくら言ってもしょうがないかなと思って。
(宇多丸)たしかにね。これね、本当に僕は細田さんを尊敬して止まないのは、まずここで。僕は18才の時に出会ってからずっと細田さんは一貫して、『いまの音楽がいちばん面白いんだし、いまの音楽をいまの人は聞いて興奮すべきだ』ってずーっとおっしゃっていて。
(細田日出男)だって、恩恵じゃないですか。
(宇多丸)そうなんですよね。映画でもなんでもそうなんですけど。まさにこれこそね・・・でも、意外とベテランほどそれが言えなく、できなくなってくるっていうのがどの業界にもあってね。まあ、それはいいや。で、もうちょっとリスナーのみなさんに説明を足していくと、たとえばそれまでの音楽はメロディー。『きれいなメロディーね』とか、『いいことを歌ってるわね』みたいな。お歌のところが中心だとしたら、やっぱりJBは・・・
(細田日出男)パーカッシブですよね。
(宇多丸)ビートというか。
(細田日出男)歌がパーカッシブだし。要は、映画にも出てくるじゃないですか。『みんなドラムだよ』って(笑)。
(宇多丸)あの、サックスのね。それこそ、メイシオ・パーカーと思われるあれが文句を言って。『どうなってるんですか、これは?』って言ったら、『いや、違うよ。お前は何を演奏してるんだ?』『サックスですか?』『違う!』『ドラムですか?』『ドラムだよ!』。
(細田日出男)(笑)
(宇多丸)『お前は?』『ドラムっすか?』『ドラムだよ!』ってね。コントみたいな、あれが。
(細田日出男)だからあれはたぶんJBの頭の中には画があったんですよね。それがさっき言ったパンチライン。面白いなと思って。
(宇多丸)で、そのビート中心であり、そしてそれを反復して。とにかく繰り返し、繰り返しやる。
(細田日出男)ループする。
(宇多丸)ループをする。それによって生まれる、これも映画の中でなかなか説明しがたい概念として出てきた、グルーヴ。
(細田日出男)グルーヴ(笑)。
(宇多丸)グルーヴってこれ、どう説明しますか?細田さん。だって、グルーヴを感じたことがない人にグルーヴをどう説明するか?
(細田日出男)あれはもう、JBが映画の中で言っている通り、感じるものだから。言葉じゃ説明できないっていうその通り。
(宇多丸)まあビートで、繰り返すことによって、そのノリというか、繰り返すことで何か高揚するような。気分が。メロディーでは絶対に生まれ得ない。
(細田日出男)生まれ得ない。そうそう。
(宇多丸)高揚が出てくる。そしてそれが、要するに、『ただの繰り返しじゃないか、ただの太鼓じゃないか、ただの叫び声じゃないか』っていうものだけが生み出す興奮っていうのが現代のダンスミュージック全般の・・・
(細田日出男)つながっている。もう全般、そうじゃないですか。ファンクもそうだし、ヒップホップもそうだし、ハウスもそうだし。
(宇多丸)ディスコもね、当然。
(細田日出男)ディスコもそうだし。
(宇多丸)なんなら、いまのロックだってダンスミュージックの影響を受けて、ファンクの影響を受けて変わってきたわけだから。もう、だからポップミュージックのほぼ、もう・・・たとえばカントリーとか以外のほとんど全部が、全てが影響を受けている。カントリーだってわかんないですけどね。というようなあたりを概要として、踏まえておいていただくと・・・ちなみに、細田さんが最初にJBを聞いたのはいつですか?
(細田日出男)僕ね、ええと・・・
(宇多丸)ちなみに細田さん、お齢を。もし、差支えなければ。
(細田日出男)61年生まれですから、54才です。
(宇多丸)はい。細田さんが最初に聞いたのは?
(細田日出男)ええと、高校2年の時だから、76年かな?に、友達に借りたジェームズ・ブラウンの『Hell』ですよ。アルバム、2枚組で。
(宇多丸)はい、はい。
(細田日出男)つまりあの、『Papa Don’t Take No Mess』とか『Funcky President』とか『My Thang』とか。あのアルバムを、出てから2年遅れで借りたんですけど。それを聞いた時に、正直、わかんなかったんですよ。
(宇多丸)ああー。
(細田日出男)ぜんぜんわかんなかった。それまでずーっとディスコとか遊んでいて。『Soul Dracula』とかで踊っていたタイプだから。
(宇多丸)はい、はい。
(細田日出男)チャラいディスコ行って踊っているわけですよ。だって、高校生ですから。で、『これを聞かなきゃダメだよ』って。その、ロックのギタリストだったんですね。友達っていうのは。その彼から借りた『Hell』っていうのを聞いて、わかんなくて。本当に。で、ただ、自分はブラックミュージックっていうのは結構わかりながらもたくさん聞いて、知っているつもりだったのに、知らなかったし、わかんないし・・・って。悔しくて、そっからJB研究が始まったんですけど。
(宇多丸)おおー!はいはい。
(細田日出男)で、ある時、コロッと変わったんですよ。それがわかんない。それはたぶん本当のグルーヴがわかった瞬間だったのかもしれないんですけど。だから、それ以来、『Papa Don’t Take No Mess』ですね。僕は。JBっていうと。そんなこと言っちゃいけないのか?
(宇多丸)いやいや、いいんですよ。ちなみに、日本での扱いっていうのはどんな感じだったんですかね?ずっと。
(細田日出男)だから、76年とか77年っていうのは正直、JBとしてはピークは過ぎていて。
(宇多丸)落ち目扱いだったんですね。
(細田日出男)そうそうそう。で、要は世の中はPファンクだったし。そういうような時代の中で、ただ僕が行っていたディスコで、たとえば六本木のレオパード・キャットっていう、サーファーディスコですよ。そこが12時を回ると、1時間か1時間半くらい、JBタイムっていうのがあるんですよ。
(宇多丸)JBタイムですか!?ブラックミュージックタイムじゃなくて、JBタイム。
(細田日出男)JBしかかかんない。
(宇多丸)なんですか、それは!?
(細田日出男)要は、踊りが上手い人がみんなそこで集まって踊ると。
(宇多丸)ああー!
(細田日出男)それがかっこよかったんですよ。
(宇多丸)へー!やっぱりこう、ダンスミュージックとしてハードコアだったんですかね?
(細田日出男)そう。だからメインの時間ではかけられないけど、そうやって深夜に本当の遊び人たちのためにJBがかけられていたっていうのはあった。
(宇多丸)おおー!こんなのは、ここで聞かないとね。証言として残っていかないことですから。非常に貴重ですよ。と言ったあたりで、CMの後、具体的にJBの代表曲を聞きながら、みなさんにグルーヴを感じ取っていただければと思います!
(CM明け)
(宇多丸)今夜のサタデーナイトラボは20世紀で最も偉大な音楽家、JBことジェームズ・ブラウン徹底再入門特集をお送りしております。ゲストは音楽ライターにしてDJ、細田日出男さんです。よろしくお願いします。
(細田日出男)はい。よろしくお願いします。
(宇多丸)細田さん、先ほどの六本木でJBタイム。腕に覚えのあるJBタイム。その六本木に行くのは、敷居が高かったってね、合間の話も面白かったですけど。
(細田日出男)いや、行けないですよ。だってお金もかかったし。ボトルキープしなきゃいけないし(笑)。
(宇多丸)そうなんですか?ディスコなのに、ボトルキープしなきゃいけない。ああ、そうなんですか。へー。
(細田日出男)相当お金がかかるわけですよ。若い子たちに。
(宇多丸)じゃあ、その手前の段階だと、どのへんに行ってるんですか?
(細田日出男)やっぱり新宿、渋谷で勉強するわけですね。
(宇多丸)あ、踊りとかも?
(細田日出男)そうです。なんだっけな?新宿にですね、パークサイドっていうですね、いま三平ストアの上にですね(笑)。そういうディスコがありまして。大衆ディスコがありまして。
(宇多丸)大衆ディスコ(笑)。
(細田日出男)そこでですね、リクエストをして、要は曲をかけてもらって。そこで踊りをみんなで練習して。もう大丈夫!ってなったら六本木に行くんです。
(宇多丸)そんな敷居が。
(細田日出男)高いですよ。当時は。
(宇多丸)やっぱその、ダサいのでいると、もう・・・
(細田日出男)そう。だから六本木、赤坂で遊びたいから、要はダンパをやるんですよ。六本木、赤坂で。
(宇多丸)ああーっ!
(細田日出男)そうすると、お店を借りれるじゃないですか。
(宇多丸)あ、素ではもう、客として行くのは敷居が高すぎる。
(細田日出男)もう本当、高いんですよ。お金もかかるし。だから(笑)。
(宇多丸)へー!あー、なるほど!ちょっと、あれですね。夜遊び歴史特集もちょっと、伺いたいぐらいですね。ひょっとしたらね。はい。その流れで、『ワイルド・スタイル』特集のね、日本に御一行様が来た時の話とかも、改めてご本人から・・・
(細田日出男)ああ、したいですね。結構間違って伝わっているところも(笑)。
(宇多丸)ああ、そうですか。わかりました。じゃあ改めて伺うとして、本日はJB特集でございます。JBの真価が改めて伝わるような曲をどんどんかけていきたいと思います。選曲の基準は、現代的文脈。つまり、ヒップホップ、ダンスミュージック主流時代といいますかね。グルーヴミュージックが主流になったこの21世紀のポップミュージックの文脈から見た重要曲、代表曲ということで。なので、かつて僕が大学の頃もそうだったんですけど。JBの代表曲とかそういうので調べると出てきた曲とはぜんぜん違います。たぶん。
(細田日出男)そこが、いいですね。
(宇多丸)80年代以降、JBの評価というのは、特に日本ではぜんぜん変わったので。そのへん、ご覚悟くださいということでございます。同時に、ジェームズ・ブラウンをサンプリングした代表的な曲なども選んでいただきました。細田さんに。さあ、行きましょう!御託はともかく。なにから行きましょうか?
(細田日出男)『Funky Drummer』っすね。
(宇多丸)『Funky Drummer』ですね!この『Funky Drummer』という曲、ちょっと説明をまず加えておいた方がいいかもしれませんけど。これ、おそらく『Funky Drummer』の途中のブレイク、要するにビートだけに、ドラムだけになる部分というのは、史上最もたぶんサンプリングされたドラムビーツと言って過言ではない・・・
(細田日出男)ドラムビーツとしては、たぶんそうじゃないですか?パッと調べるだけで、1033ありました。
(宇多丸)1033!?
(細田日出男)1033。これ、たぶんアップデートされていると思うんで、1033で間違いないと思います。
(宇多丸)『Funky Drummer』というぐらいでね。なので、これはたぶん、音楽史上最高のドラム曲という風に言ってもよろしいんじゃないでしょうか。
(細田日出男)たしかに。
(宇多丸)あと、問題のその箇所が出てくるまで、たぶん4分ほどございます。
(細田日出男)5分ぐらいかな?
(宇多丸)5分ぐらいあります。ただ、本日はそのJBの、さっき言った反復によって生まれるグルーヴ感というか。いかに特異な音楽像。要は、歌ってねえじゃん!とか。メロディーがねえじゃん!とか。そういうところも。で、繰り返しじゃん!とか、しつけえな!とか。そういうところも含めて体感していただきたいので、あえて『Funky Drummer』をモロがけしたいと思います。
(細田日出男)画期的ですね、これは。
(宇多丸)通常のヒップホップDJがこういうかけ方をすることはございません。途中のビートのところから、近いところからかけたりするわけですけど。じゃあ、行ってみましょうか。ご紹介いただけると。お願いします。
(細田日出男)ジェームズ・ブラウンで『Funky Drummer』。
※動画5:20からドラムビーツが登場します
(宇多丸)何万回聞いたんだ?っていう感じなんだけど、かっこいい!やったー!
(細田日出男)やった!素晴らしい!画期的ですよ、本当。
(宇多丸)あの、ヒップホップのDJはこの部分をね、繰り返して、ブレイクビーツとして引き伸ばして使ったりとか。いろんな使い方をしております。お聞きいただいているのは、ジェームズ・ブラウンで『Funky Drummer』でございます。まあ、かっこいい!
(細田日出男)かっこいいよね。
(宇多丸)かっこいいですけど、同時に、歌がない、繰り返し・・・
(細田日出男)(笑)
(宇多丸)でも、このまさに繰り返しであるとかっていうところが、たとえばハウスなんて、もはやね、歌がずーっとなくて。一晩中ずーっと歌なしのビートが続いて、朝方に1回だけ、歌のところがポーン!と来て、ワーッ!とか。まさにいまの我慢の一晩中版っていう。
(細田日出男)(笑)
(宇多丸)ダンスミュージックってちょっと我慢っていうの、ありますよね。現代ダンスミュージックは。
(細田日出男)その通りだね。
(宇多丸)はい。さあ、ということで、どうしましょう?これ、『Funky Drummer』を使ったサンプリング例とかも聞いてみますか?ちょろっと。
(細田日出男)じゃあ、これですね。いいですか?紹介しちゃって。非常に有名な曲だと思うんですけども、LLクールJの『Mama Said Knock You Out』。これが全編『Funky Drummer』ですね。
(宇多丸)はい。ちょっとじゃあ、一瞬だけそのビートが入ってくるくだりとかね、聞いてください。
(宇多丸)はい。LLクールJ『Mama Said Knock You Out』。これ、91かな?90?だったと思いますけどね。はい。これ、まあ『Funky Drummer』にさらに、マーリー・マールがちょっとビートをさらに加工したりとか。まんま使う時代じゃないですからね。とかですかね。こんな感じで、LLクールJに限らず、いろんな曲で使われてきたということでございます。
(細田日出男)ものすごい数ですね。
(宇多丸)もう挙げられません。『1、2、3!』とかね。あのへんでもう、わかるんじゃないかと思いますけどね。ということで、細田さん、どんどん曲、他のも行きましょう。
(細田日出男)じゃああの、次ですね、これ、『Funky Drummer』と同じ頃のセッションで。実はずっと未発表だったものが88年に発掘されて出たっていう、有名な『She’s The One』っていう。元々はハンク・バラードの曲をカバーした曲なんですけど。これが『Funky Drummer』っぽいビートっすよね。だからこれも、ちょっと聞いてもらえると面白いかなっていう風に思います。未発表音源なんですけど。
(宇多丸)88年に発掘されてリリースされた曲でございます。
(細田日出男)『She’s The One』ですね。
(宇多丸)うーん!ジェームズ・ブラウン、当時は未発表音源だったが、88年に発掘された・・・70年?71年?曲としては。
(細田日出男)そうですね。70年か。
(宇多丸)『She’s The One』という曲でございます。ちなみにこの曲、細田さんがこれをリストに入れられて僕、『おっ!?』と思ったのが、僕が大学1年生で最初にGALAXYの門を叩いた時に、『君はどういう音楽を聞くんだい?』って言われて、『ヒップホップとかも好きなんですけど、最近はヒップホップの元ネタで使われているレアグルーヴと言われる古いファンクとかが好きになってきて。いまはこれが好きです』って最初に挙げたのがジェームズ・ブラウンの『She’s The One』なんですよ。
(細田日出男)(笑)
(宇多丸)だから、それはあの文脈で挙げたんじゃないんですか?
(細田日出男)違う(笑)。
(宇多丸)なんだ・・・細田さん、さすがそれ、覚えてたんだ!って。んなわきゃなかったっていう。
(細田日出男)(笑)
(宇多丸)でもあの、『Funky Drummer』をブレイクのところまでのっぺり聞いた後では、なんて聞きやすい・・・
(細田日出男)キャッチーだね、これ!
(宇多丸)普通の曲なんだろう!っていうね。
(細田日出男)大衆ファンクになってますね(笑)。
(宇多丸)普通の、大衆ファンク(笑)。初めて聞きました。大衆ファンクって(笑)。はい。『She’s The One』、かっこいいですね。どんどん行きましょう。ガンガン聞いて行きましょう。
(細田日出男)次は・・・行っちゃいますよ。どんどん。次はね、『Funky President』ですね。これもですね、ものすごい数、サンプリングされているはずで・・・
(古川耕)603曲ですね。
(宇多丸)そんな!これはさ、先にこのサンプリングされている代表曲を聞いてから、逆にこっちの元に行くっていうのはどうですか?先に、これ聞いてみましょうよ。
(細田日出男)じゃあ、エリックB&ラキムの・・・
(宇多丸)『Eric B. Is President』。
(宇多丸)あの、先ほどの『Mama Said Knock You Out』、LLクールJに続いてマーリー・マールというね。この曲は1987年?6か?の曲ですかね。80年代の半ばに、要するにサンプリングによるヒップホップ手法でJBが再評価というか。新たな視点で若い世代に受け継がれていた世代の代表曲。エリックB&ラキムで『Eric B. Is President』。まあ、このビートですね。要はね。
(細田日出男)で、これの元が・・・
(宇多丸)元を聞いていただきましょうか。
(細田日出男)『Funky President』。ジェームズ・ブラウンで。
(宇多丸)うーん!かっこいい!JB『Funky President』でございます。あれですね。こうやって並べて聞くと、わかりますよね。構造としてヒップホップに受け継がれているっていうのもすごくよくわかりますし、同時に、やっぱりJBが思いきってグルーヴだけに特化して。メロディーとかじゃなくてっていう方に特化してっていうのを、さらに後のヒップホップとか、ハウスでもなんでもいいですけど。現代的ダンスミュージックが過激化していっていまの音楽像になっているっていうのがすごいよくわかりますよね。
(細田日出男)わかりやすい。それは。
(宇多丸)よくでも、時代がぜんぜん違いますからね。それこそ、横で並べると。1970年代にそんな音楽像をやっている人、いないわけですよね。
(細田日出男)それがだから、ここにばっちりハマッたっていうわけだから、そこがすごいなと思って。
(宇多丸)で、ちゃんと大衆的な支持も得ているわけですもんね。あ、ちなみにこの曲、R&Bチャート4位でございます。だからまあ、普通にヒットもしているということですけども。
(細田日出男)それでなんか、ちょっと調べてさ。JBの曲をいちばん最初にレコードでサンプリングしたのは誰かな?と思って。俺が調べた中では、スプーニー・ジーが『Spoonie Is Back』でこの『Funky President』を使っていて。
(宇多丸)へー!
(細田日出男)ただ、シュガーヒルだから、演奏し直し。っていうのがあって。だから、たぶんブレイクビーツって、当時の若いやつらがラップをする時のバックトラックっていう意味でいけば、当時ヒットしていて、しかもブレイクビーツにしやすい曲。たとえばだから、シュガーヒル・ギャングの『Rapper’s Delight』みたいに、シックの『Good Times』を使うみたいな。
(宇多丸)はいはい。
(細田日出男)それと、あともうひとつ、こういうクラシックなファンクから、こういう風にブレイクビーツにしやすいものっていうのが、もうすでにその頃から当然・・・まあ、『Apache』なんかもそうだけどさ。
(宇多丸)まあ、ビート中心の音楽というかね。それこそヒップホップ黎明期でヒップホップ文化を作ってきた生き証人であるクレイジー・レッグスっていう、ロック・ステディー・クルーというブレイクダンスチームの伝説的な、いまだに活躍されてますけども。クレイジー・レッグスがインタビューとかで答えているのは、『音楽的な面でのルーツは、とにかくJB。他はいない』っつって。
(細田日出男)(笑)。もうそれが本当に基本中の基本だったってことだよね。だからね。
(宇多丸)っていうことでしょうね。
(細田日出男)もうなにも言わなくても、みんな共通してわかっていることみたいなのがあったんじゃないかな?そういう、空気というか、DNAみたいなのっていうのも、おそらくあったんじゃないかな?とは思う。JBに関しては。
(宇多丸)要はね、一部のそれこそ尖った、部族音楽か?っていうようなね、機能をしていた音楽が、実験音楽級なアバンギャルドなことが世界中に散らばっていって、変えていくっていうのがね。
(細田日出男)それは、すごいな。
(宇多丸)いいですよね。やっぱね。さあ、どんどん行きましょうよ。曲をね。
(細田日出男)じゃあまた、ネタ使った曲から先に行きます?じゃあ、次、ジェームズ・ブラウンの『The Payback』を紹介しようと思うんですけど、このサンプリングした非常に有名な曲として、これはR&Bですけど、トータルの『Can’t You See』っていう曲があるんで、まずこれを聞いてもらえると。
(宇多丸)はい。
(宇多丸)はい。お聞きいただいているのはジェームズ・ブラウンの『The Payback』をサンプリングしたトータルの『Can’t You See』。それではもう、間髪入れず、行っちゃいましょう。
(細田日出男)『The Payback』。
(宇多丸)はい。ということで、これは74年の曲ですね。ジェームズ・ブラウン『The Payback』、聞いていただいてますけど。R&Bチャートでもこれは1位に。あの、いままでの曲でいうとまあ、そのループ。繰り返し、反復によって生まれるグルーヴっていうのはもちろん共通してますけど。またちょっとこう、クールなというか。
(細田日出男)超クールっすよね。これ。
(宇多丸)感じがしますよね。
(細田日出男)なんか、発散しないっていうか。全て中に溜め込むっていう。そういう新しいスタイルをこの『The Payback』でたぶんJBは出したんだなっていう風にすごい思うね。で、この後、こういうタイプが続くんですよ。で、こういうのが結構やっぱりJBのサンプリングされた曲の中で多いっていうのが、主張するものがあんまりないんですよね。クールすぎて。だから、邪魔をしない。サンプリング。
(宇多丸)素材として使いやすいし。
(細田日出男)素材として使いやすい。そう。だから、ここでたぶんJBが『ああ、もうここまでやりゃあいいかな?』と思った中の1曲かな?と思うんですよ。これが。『The Payback』って。
(宇多丸)ああー、ある意味、ちょっとミニマルな路線みたいなものを突き詰めた結果。
(細田日出男)結局ここに、最終的にもしかしたら向かったのかもしれない。ぜんぜん、僕が思ったことですよ。
(宇多丸)いやいや、でもそうかも。たとえばだって、こっからさらに削ぎ落とすとしたら、もう俺の歌か?とかさ。ねえ。
(細田日出男)(笑)。もう、ないでしょう。
(宇多丸)ねえ。メロディーなくなってくると、もう、この時点では限界まで削ぎ落としてますもんね。
(細田日出男)そう。ここであれなんですよ。ここで結局ね、『The Payback』を皮切りに3曲連続で1位とってるんですけど。R&Bチャートで。だからここ、またひとつのピークなんですよね。
(宇多丸)なるほど。また新しいね、グルーヴ像というか音楽像を提示して。でもその、弾けきらないというか、熱を溜め込んで、あくまで表面はクールという。クールを保つってこれ、ブラックミュージックのね・・・
(細田日出男)そう。美徳ですよ。これは。
(宇多丸)ロックとは違う。
(細田日出男)ここがわかると、そういうの絶対ないですよ。
(宇多丸)ですもんね。といったあたり。もうバンバン行きましょう。曲、聞きましょう。
(細田日出男)じゃあ次はこの『The Payback』流れっていうか、さっき言ったようにその『The Payback』風な曲として僕が本当に好きな、『Papa Don’t Take No Mess』。
(宇多丸)先ほどね、ちょろっとおっしゃってましたけど。
(細田日出男)これも非常に有名な大ヒット曲ですけど。ジャネット・ジャクソンの『That’s The Way Love Goes』。
(宇多丸)こんなね、素敵な。ジャネット・ジャクソンの素敵なお歌。
(細田日出男)ジャム&ルイスのセンスもすごいなって感じですけど。
(宇多丸)が、あんな・・・さあ、JBがどうサンプリングされているのか?という。元の曲。細田さん一のお気に入りの曲をご紹介してください。
(細田日出男)はい。『Papa Don’t Take No Mess』。
(宇多丸)はい。ジェームズ・ブラウン。これは74年の曲でございます。『Papa Don’t Take No Mess』。これもR&Bチャート1位を獲得した曲です。サンプリングされた例もね、他にもいっぱい。ビズ・マーキーとかもいろいろありますけども。
(細田日出男)結構でも、44。これはそんなに多くなかった。
(宇多丸)あ、そんなに数がなかった。
(細田日出男)もっとあったかな?って思ったけど。
(宇多丸)これをでもね、ああいう風に料理する。ジャネット・ジャクソンの曲に料理する、先ほどおっしゃったジャム&ルイスというプロデューサーのね、センス。
(細田日出男)センス、素晴らしいな!
(宇多丸)だからサンプリングっていうのはそのまま、要は匂いを変えてくるだけじゃなくて、それをベースにさらに新しいものを作っていくというね。いい例になったんじゃないでしょうかね。さあ、ということで、時間もだんだん減ってくる中でどんどんJBの曲を聞いていただきたいんですが。どうしましょう?
(細田日出男)これもちょっと、中期JBの代表的な曲がありまして。行っちゃいますね。『Give It Up Or Turn It a Loose』。
(細田日出男)ちょっと僕、言い忘れてしまったことがあるんですけど。映画でも語られることなんですけど、JBがファンクで重要なのは一拍目。要は、『On the One』っていう考え方。この一拍目に全てを集中させろ!っていう。
(宇多丸)ほう。
(細田日出男)たぶんそこはJBがそれまでの、いわゆるリズム・アンド・ブルースと言われているものを線引きするのに、いちばんこだわった部分なのかな?っていう。
(宇多丸)どういうことなんですか?具体的には。
(細田日出男)いや、溜めですよね。きっとね。一拍目と二拍目に来る、その溜めの部分がファンキーなんだよっていう。
(宇多丸)その、もう最初の、そこの1個目の、ウッ!って来る溜めだけで、最初のグルーヴが生まれるっていうか。波が。
(細田日出男)そこをまず、いちばん力を入れてやれと。
(宇多丸)逆に言えば、そこをたとえば突っ込んじゃったりとかすると、ビートが狂っちゃったりすると、全体が気持ち悪いことに・・・
(細田日出男)そう。そうすると、JBの言うグルーヴっていうのが崩れちゃう。それを持続するためには、常に一拍目を意識しろっていう。
(宇多丸)なるほど。そういうパンチラインも。
(細田日出男)そう。いっぱいある。面白いです。
(宇多丸)ちなみに僕、この『Give It Up Or Turn It a Loose』は、無人島で1曲だけしか曲を聞けないみたいな状況だったら、もうこれでいいです。僕は。
(古川耕)おおー。
(宇多丸)あの、さっきからね、音楽の構造を強調してますけど。やっぱりJBのボーカリストとしての、実はこの人、ものすごい引き出しも広いし。テクニカルだし、かと思えば、このシャウトの楽器力の・・・
(細田日出男)歌の上手さっていうか。そこはもう、筆舌に尽くしがたいところ、あるんじゃないですか。
(宇多丸)あと、この曲、『Give It Up Or Turn It a Loose』に関しては、映画の中でも、ミュージシャン勢の中でも特にクローズアップされてますけども。やっぱりベーシストのブーツィー・コリンズ。
(細田日出男)あ、これブーツィーですね。
(宇多丸)はい。後にね、Pファンク勢となっていきますけども。ブーツィーのこのベース!なに、このベース!?もう、いま、何度聞いてもまったく古びない。
(細田日出男)これ、だからオリジナルから、『In the Jungle Groove』に入った、たぶんオーバーダブ、ちょっとされているのか、それともEQをかけ直しているのか、余計、ベースとかがはっきり前にポーン!と出てきてるから。やっぱりこのバージョンですね。
(宇多丸)これ、86年にレアグルーヴ的にヒップホップのルーツ的に再評価されて以降に出たアルバムに収録されているバージョンでございます。さあ、もう1曲。あ、これが本日最後の曲というか。JBの曲としては最後になりますけども。聞いてみましょう。
(細田日出男)じゃあ、『Get Up, Get Into It, Get Involved』。
(宇多丸)もう、これはみなさん、グルーヴとかかっこよさに関して、もはや説明はいらないんじゃないでしょうか。いまお聞きなのはジェームズ・ブラウン『Get Up, Get Into It, Get Involved』。
(細田日出男)読みにくいね(笑)。
(宇多丸)はい。えー、ということでね、ざっくり、我々の考えるというか、世界的にJBがいまの音楽にどうつながっているか?という評価ポイントを中心としたJBの曲を聞いてくるという特集。聞いてきましたけども。
(細田日出男)『Sex Machine』がなくてすいません。
(宇多丸)『Sex Machine』じゃないんです。でもね。『Sex Machine』もいいんですけど。はい。ということで、細田さん。1枚、ジェームズ・ブラウンでこれからアルバムをなにか聞いてみたい。入門編で聞いてみたいという人におすすめのアルバムはありますでしょうか?
(細田日出男)まあ、今日の選曲からいけば、『In the Jungle Groove』っていう。ヒップホップがJBを再評価して組まれたコンピレーション。これがやっぱりいちばんいいんじゃないでしょうか。
(宇多丸)私もそれだと思います。これは一致してございます。『In the Jungle Groove』、こちらをチェックしていただきたいと思います。そしてもちろん、今月30日から公開される映画、『ジェームス・ブラウン 最高の魂(ソウル)を持つ男』もぜひ、ご覧ください。とにかく、ライブ映像を大音響で聞くというところがすっごい面白い。あと、時間軸の扱い方も大変面白い映画でございます。ということで、駆け足でございましたが、最後ね。20世紀で最も偉大な音楽家、ジェームズ・ブラウン特集でした。細田さん、ありがとうございました。
(細田日出男)どうもありがとうございました。
(CM明け)
(宇多丸)はい。ということで夜10時から生放送でお送りしてきましたライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル、いかがだったでしょうか?本日のエンディングテーマは数あるジェームズ・ブラウンのメガミックスというかね。曲を混ぜたやつの中でも、もうクラシック中のクラシックとして知られておりますコールドカットによるね。これ、Amazon MP3で手にはいりますので。
ヒップホップの文脈でも非常に上手くつなぎ合わされた、最高のメガミックスでございますので。こちらもおすすめ作品でございます。さすが、コールドカット。『VS GODFATHER』という、一応タイトルになっておりますね。『Payback Mix』だとずっと思ってたんだけどな。まあ、それはいいや・・・
<書き起こしおわり>
http://miyearnzzlabo.com/archives/19485
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細田日出男と宇多丸 ジェームズ・ブラウンの偉大な功績を語り合う
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